香羅巾下
一別三年
一日三秋
君何ぞ帰らざる
記す尊姑(そんこ)老病(ろうびょう)
親(みずか)ら薬餌(やくじ)を供す
塋(けい)を高くして埋葬し
親(みずか)ら麻衣(まい)を曳く
夜は燈花を卜(ぼく)し
晨(あした)に喜鵲(きじゃく)を占う
雨梨花(あめりか)を打って昼扉(ひると)を掩(おお)う
誰か知道(し)らん恩情永く隔(へだた)り
書信全く稀ならんとは

干戈(かんか)満目(まんもく)交(こもごも)揮(ふる)う
奈(いずく)んぞ命薄く時乖(そむ)き
禍機(かき)を履(ふ)んで鎖金(しょうきん)帳底(ちょうてい)に向う
猿驚き鶴怨む
香羅巾下(こうらきんか)
玉と砕け花と飛ぶ
三貞を学ばんことを要せば
須(すべから)く一死を拆(す)つべし
旁人(ぼうじん)に是非を語らるることを免る
君相念いて算除(さんじょ)せよ
画裏に崔徽(さいき)を見るに非ず

 歌の中に啜(すす)り泣きが交って、詞(ことば)をなさないところがあった。趙も涙を流してそれを聞いていた。
 歌の声は消えるように輟(や)んだ。趙は夢の覚めたようにして愛卿の側へ往った。
「おいで、お前にはいろいろ礼も言いたい、よくきてくれた」
 趙の手と愛卿の手はもう絡みあった。二人は室の中へ入った。
「お前はお母さんのお世話をしてくれたうえに、わしのために節を守ってくれて、なんともお礼の言いようがない、わしは、今、更(あらた)めて礼を言うよ」
「賤(いや)しい身分の者を、御面倒を見ていただきました、お母様は私がお見送りいたしましたが、思うことの万分の一もできないで、申しわけがありません、賊に迫られて自殺したのは幾分の御恩報じだと思いましたからであります、お礼をおっしゃられては恥かしゅうございます」
「いや、お礼を言う、それにしても、お前を賊に死なしたのは、残念で残念でたまらない、今、お前は冥界(めいかい)におるから、お母さんのことも判ってるだろうが、お母さんは、今、どうしていらっしゃる」
「お母様は、罪のない体でしたから、もう人間に生れかえっております」
「お前は、何故、いつまでもそうしておる」
「私は、私の貞烈のために、無錫(ぶしゃく)の宋(そう)という家へ、男の子となって生れることになっておりますが、あなたに情縁が重うございますから、一度あなたにお眼にかかるまで、生れ出る月を延ばしております、が、もうお眼にかかりましたから、明日は往って生れます、もしあなたがこれまでの情誼をお忘れにならなければ、一度宋家へ往って、私を御覧になってくださいまし、笑ってその験(しるし)をお眼にかけます」
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by yuugaavvv | 2006-02-18 16:12